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水の響き

徒然つれづれ帳

リハビリだよ

 明らかに体調の悪い顔色だった彼女と次に顔を合わせたのは、翌朝朝一の便を待つ船着き場だった。彼女の方から話しかけてきた事で、レティシアは昨日一度顔を合わせたきり、後は一度も行き会わなかった彼女から、大まかな事情を聞くことが出来た。それは所々をごまかされた説明だったが、もう大丈夫なのだと笑ったソフィレーナが嫌に晴れ晴れとして見えて到底嘘をついているようには見えなかったので、納得しておくことにした。
 頭の片隅で、痴話げんか、だの、男女の危うい事がよぎったが、友達は昨夜本土に帰ってきていたのだから、勢いあまって、といった下世話な話はないだろうと検討をつける。

まあ、プロフェッサーはハナからアッチが不能なのかもしんないけど。

 プロフェッサー、つまりは国立図書館の創館長のことなどレティシアにとってはどうでもいい事なので話題には出さないが、ソフィレーナの貞操の事は、気になった。
 レティシアが感じるに、ソフィレーナは、危ない、のだ。危ない。友達が総館長へ抱く陶酔は、感情は、度を超し過ぎてている。思わず、数居る友人たちの中でも一際心配してしまう程には。
 ソフィレーナ・ド・ダリルという友達は、極めて危ない恋の仕方をする友達だ。

この子みたいなのが、駄目なのよ。
手前で危うさに気づいてんのに、判っててとまりゃしない。
踏み込むんだから。

 不幸になる恋の仕方だ。それでもそんな友達に、勝手にしなさい、と言えない。
 レティシアには、言い切れない過去がある。
 レティシアはありていに言って、あまり男性が好きではない。それは彼女の母親を反面教師に育ってきたレティシアなりの価値観で、かなり根深いものだった。もし仮定の話、好きになるのなら男性だろうそれは間違いない。ただ、世の男のあり様にどこか冷めた視線を向けてもいる。男共に食い物にされ、母親は自分と三人の弟達を養うために働いて身を持ち崩した。男に弱い女。騙されたとあれほども泣くのに、傷つけられるのに、それでも最後には男を許してしまう女。その献身が報われた姿をレティシアは見たことがないのだから。母に対しては割り切れない気持ちを、男共に対しては燃え盛るような憎悪を抱いて育ってきた彼女は、月日を経るにつれ幸せな家庭もあると知った今でさえ、ついつい浮ついた話にはキツイ態度を取りがちだった。国立図書館内ではそうそう男女間の軽薄な話は聞かないが、男は信用ならない。甘い顔をしてる裏には何かある。それが、彼女の信条。
 まあ、ただ今回は。彼女にしては珍しいことに、この友達のケースだけは。

 船が出る少し前、レティシアはソフィレーナに問いかけた。
 横に座った友達は、大変特徴的な眸を軽く見開き。
「すごく、幸せ。
 ……レティーは凄いね」
 夏の朝日と共に開く柔らかな花のような清廉さで、微笑んだ。
 レティシアの、祝福できる微笑みだった。



もうちょっと色々つけたいけど、ここまで。
草案だからまた少し変えたい。

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